デジタル印刷で使える用紙には、制限があることが多いです。ひと口にデジタル印刷と言っても、用紙選択の自由度が高いデジタル印刷とそうでないデジタル印刷がありますので、どのような印刷方式でどのような制限があるのかを解説します。
デジタル印刷における用紙選択
デジタル印刷の方式には大きく2つの種類があります。ひとつは電子写真方式と呼ばれる、トナーを使用するタイプのもの、もうひとつはインクジェット方式で、その名の通りインクを紙に吹き付けるタイプのものです。
このうち、特にインクジェット方式については、きれいに印刷するためには専用紙が必要なケースが多くあります。一般にインクジェット方式では、インクのヘッドから吐出されるインクの液滴が、紙の表面についた際に周囲に広がり、また紙の繊維に沿って内部に染み込んでいきます。この時、用紙表面での広がりや染み込みが、いわゆる「にじみ」となりますが、にじみの程度がコントロールできないと、印刷品質が損なわれてしまいます。
多くのインクジェット方式のデジタル印刷では、この問題を、「用紙」の方に改良を加えることで解決しようとしています。つまり、用紙表面ににじみをコントロールするための材料(プライマーと呼ばれます)を塗布(プレコート)することで、インクが適正なレベルで用紙に染み込みます。これによって、インクが染み込みすぎて紙の裏まで抜けてしまう、逆に染み込み不足で別の紙にインクが移ってしまうといったトラブルを回避しているのです。写真用紙やハガキなど「インクジェット専用」という商品名のついた紙は、このようなアプローチで作られています。家庭用のプリンターでも、インクジェット専用紙に印刷しなかったことで色が沈んでしまったり、インクの水分で紙が波打ってしまったりといったご経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
プレコートを行う用紙の改善はメリットを生む一方、プライマーが用紙の最表層を覆ってしまうために用紙の風合いが損なわれるというデメリットがあります。また、用紙の種類が限られ、使いたい用紙を使えないという点は、用紙の風合いも含めてデザインであるということを考えると、デザインの選択肢を狭めてしまっているとも言えます。特に書籍のデザインにおいて用紙は、読者がページをめくる時の手触りという体験も含めてデザインされるため、用紙の選択肢の自由度が低いことは非常に重要な限界になってきます。
用紙選択の自由度の高いデジタル印刷
上記のような問題点を解決するため、技術的な側面からいくつかの選択肢が提示されています。
・必要な部分にのみプレコートを行う:インクジェット専用紙ではない用紙に対して、印刷の絵柄が乗る部分にのみ、プライマーをプリントするというアプローチです。この方法では、インクが乗らない部分は元の紙のままですので、用紙の風合いが損なわれにくいというメリットがあります。一方で、色のインクの他にもう1色プライマー用のインクが必要になるため、コストが高くなってしまいます。
・UVインクを使用する:紫外線を当てて硬化させるUVインクをインクジェットヘッドから吹き付け、印刷機内でUV照射してインクを固めるというアプローチです。インクが染み込む前にUVで固めてしまうので、用紙選択の自由度は高く、かなりの凹凸のある紙でも印刷が可能です。