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AR・VR|コラム

23.09.04

空間コンピューティングとは?未来を作る新しい体験

AR・VR|コラム

23.09.04

空間コンピューティングとは?未来を作る新しい体験

昨今、「空間コンピューティング」というワードが話題となっています。「空間コンピューティング」という言葉自体は以前よりありましたが、去る2023年6月に、Apple社が「Mac」「iPhone」に続く、3番目の大型新製品と位置付けている「Vison Pro(ARゴーグル)」が発表され話題となり、そのデバイスを説明するワードとして「AR」や「VR」ではなく、「空間コンピューティング(Spatial computing)」という言葉がしきりに使われたことが注目を集めた要因となっています。


空間コンピューティングの一般的な定義

「空間コンピューティング」の表示イメージを例えると、よくSF映画に登場するホログラム映像のような、現実空間上に3D情報を重ねて表示するようなものが近いかと思います。

では、どのようにして現実空間にデジタル情報を浮かべて表示するのかというと、「ARゴーグル」や「ARメガネ」を装着し、そのレンズ越しに見える現実空間上の適切な位置にデジタル情報を3D立体表示することで実現します。これは「AR(拡張現実)」技術と非常に近しい概念です。空間コンピューティング技術によって、現実空間全体が立体的なスクリーンとなるため、「画面内のデジタル情報」と「画面外の現実空間」とを視覚的に継ぎ目なく表示することができ、広く視界全体に3Dでデジタル情報を表示する事が出来るようになります。

空間コンピューティングが必要とされる理由

なぜこのような空間コンピューティング技術が必要とされるのでしょうか?それには大きく2つのメリットが考えられます。

1つ目として、本来、現実世界に存在するものは3D(3次元)形状なのですが、それを伝達するためのメディアが「紙」や「画面」といった「平面(2次元)」であるため、情報伝達も2次元(画像や動画など)に限定されていました。現在では技術の発展により、スマートフォンなど個人の端末で手軽に3Dデータが表示出来るようになったため、画面上での情報伝達でも現実世界と同じように3Dで自然に表示できるようになりました。さらには端末のカメラで、目の前の現実空間をリアルタイムで3D空間として認識する事も可能となったため、「目の前の現実空間上に3Dのデータをリアルタイムに置いて表示する」といったことができるようになりました。つまり空間コンピューティングは、肉眼で現実空間を見ているのと同じように最も自然な形で、デジタル情報を見ることができるようになるのです。

2つ目のメリットとして、小さな画面を見続けるストレスから解放される、ということが挙げられます。現在私たちがデジタル情報を閲覧するには、端末の「画面」を注視する必要があります。この画面は、ノートPCだと30センチくらい、スマートフォンだと10センチ程度の小さな「小窓」を常に覗き込んでいるような状態です。一方で、私たちの視界全体を考えると、その何百倍もの面積があります。「空間コンピューティング」においては、この「画面」という制約を取り払い、視界全体の広いスペース全体を使ってデジタル情報を表示できるため、従来のような「画面」という狭いスペースに凝縮された多大な情報を読み込んでいくようなストレスが軽減されます。実際には視界の外(例えば閲覧者の横や後ろ)、さらには遠い場所にもデジタル情報を表示する事が出来るため、ほぼ無限のスペースに情報表示が可能となります。

このような事が「空間コンピューティング」技術が求められている背景です。端的に言うと、現実世界と同じように、自然にデジタル情報を表示する事が可能となる技術であるため、今後はますます活用が広がっていくものと思われます。

AR・VRと空間コンピューティングの違い

空間コンピューティング、AR、そしてVRという言葉の関係性は、下図の通りです。空間コンピューティングは「AR」と近しい概念ですが、従来AR・VRと言われていた要素の上位概念と捉えることができます。

「AR」は、目の前の空間が見える状態でバーチャル情報を重ねて表示しますが、そのARから「目の前の視界」を遮って表示するものが「VR」となります。ARとVRは別々のものではなく、AR表示の目の前の視界を自分の手で遮って見えなくしただけで、それは「VR」であると言えます。つまり、ARコンテンツは容易にVRコンテンツとしても流用が可能なため、AR・VRといった分類は、今後重要性を失っていくものと思われます。代わりに、それらを包括するより広い概念として「空間コンピューティング」という言葉に収斂していく可能性が高いように思われます。

空間コンピューティングの構成

2023年6月のAppleによる空間コンピューティングデバイスの発表により、その構成内容が明確に定義されました。ここからは、Appleが発表した空間コンピューティングの表示方法をベースとして、その構成を説明していきます。
Appleが空間コンピューティングを構成するものとして、3つの要素があります。それが、「ウィンドウ」「ボリューム」「スペース」の3つです。
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ウィンドウ

見た目は従来のPCで使われていた「ウィンドウ」とほとんど同じ、平面的な表示領域です。空間コンピューティングでは、このウィンドウは従来のようなPCの画面上ではなく、自分のいる部屋の空中に浮かんでいるような形で表示されます。空間コンピューティングでは「画面」という制約がないため、部屋の様々な場所に自由にウィンドウを浮かべて配置することができます。

ボリューム

これは従来にはない要素で、空間コンピューティング特有の表示方法となります。上記の「ウィンドウ」が平面的な表示領域であるのに対し、「ボリューム」は立体的な体積を持った表示領域です。部屋の中に立方体の空間が浮かんでいるようなイメージで、そのエリア内に3DCGコンテンツなどを表示することができます。この「ボリューム」は、必ず上記の「ウィンドウ」とセットで表示されるもので、ウィンドウの数に応じてボリュームも複数表示することが可能なようです。「ボリューム」は、3DCGをある一定のエリア内のみに制限してまとめて表示させる役割を担っています。なぜ3DCGの表示範囲に制限を設けているかというと、自分の部屋などの空間内に、沢山の3DCGを乱雑に入り乱れて配置してしまうと、ある3DCGがどのウィンドウに属するCGなのかが分かりにくくなってしまうためでは、と推測しています。

スペース

スペースはユーザーの視界全体を指します。上記の「ウィンドウ」「ボリューム」も包括する空間です。
スペースには2種類あり、複数のアプリが同時に視界に表示される「共有スペース」(デスクトップ画面のようなもの)と、1つのアプリのみが視界全体に表示される「フルスペース」(全画面表示のようなもの)があります。
さらにスペースは表示のスタイルが調整可能で、AR表示(ゴーグルを透過して目の前の現実世界も見えている状態)と、VR表示(視界が完全にバーチャル表示で覆われている状態)を選択できます。この2つの状態は、ゴーグルのダイヤルを回すことで、どの程度の透明度で現実空間の視界が見えるかを調整することができます。サングラスの視界の暗さをダイヤルで調整するようなイメージです。

空間コンピューティングで可能なこと

引き続き、Appleが発表した空間コンピューティング端末である「Apple Vision Pro」をベースに、今後どのようなことが可能となるのかを見ていきます。

視線での操作

空間コンピューティングデバイスの「Apple Vision Pro」でのインターフェースは、コントローラーなど別の道具が不要であることが特徴です。操作方法としては「指先のジェスチャー」と「声」に加えて、「目(視線)」での操作も可能です。例えば、従来のようなマウスでカーソルを動かすような操作は「視線」で操作し、決定する操作(ダブルクリックなど)には「指先のジェスチャー」を使うようなイメージです。見たものが即、選択待機状態となるため、従来のマウス操作よりも遥かに素早く正確に操作が可能だと言われています。さらに従来型のキーボード、トラックパッド、ゲームコントローラーといったものからの操作も可能です。

空間共有、共同作業が可能

空間コンピューティングで表示する情報は、基本的には端末を見る1人の視界のみに表示されますが、本人がコンテンツを共有した場合には、複数人で同じ情報をリアルタイムで空間共有・共同作業をすることも可能です。

プライバシーファーストで設計

空間コンピューティングを実現するには、目の前の空間情報の把握や本人の視線の追跡、さらにはロック解除のための虹彩認証など、様々な情報を沢山のセンサーから取得しています。このため、Appleではこれらの情報を本人以外が取得できないようにプライバシーファーストな設計がなされています。このような仕組みによって初めて、安心してこのようなデバイスを利用することが可能となります。

空間コンピューティングの活用、想定される利用法

PCやスマートフォンでの作業

これまでのように画面内を見続けるのではなく、空間全体にウィンドウを配置することにより、広々と、大きく情報を把握することができるようになります。
またスマートフォンでの閲覧についても、空間コンピューティング端末のようなゴーグル装着による閲覧であれば、目の前が見えた状態でかつ両手が空くため、家事など他の作業をしながら必要な情報を把握することも簡単になります。

映画・スポーツ・舞台の観覧

空間全体がディスプレイになるため、自宅に居ながらにして、会場で観覧するかのような体験が可能となります。撮影方法によっては、客席からの視点だけでなく、自分がステージ上に入ったかのような臨場感のある視点や、ステージ全体をテーブルの上にミニチュアのように置いて、全体を俯瞰するような視点からの鑑賞も可能です。

仕事の効率化

オンライン会議でも、メンバーと同じ部屋にいるかのような感覚でコミュニケーションを取ることが可能となることが期待できます。メールでのデータのやり取りも、従来のような画像データだけでなく、3Dデータを目の前に置いて、現物を確認するように情報共有やチェックができるようになるため、現物が届くのを待つ時間を短縮させたり、保管場所を減らしたりすることができます。
専門的な知見が必要な作業をする際も、目の前の対象物に直接、正しい手順を動画で重ねて表示する「ARマニュアル」を活用することで、手順を習得するまでの時間を大幅に短縮させることが可能となります。

日常生活

自宅での誕生日会などの思い出を残すのに、これまでは写真や動画を撮影して保存していました。これに加えて、空間コンピューティング端末を活用することで、奥行きのある3Dカメラで動画を撮影し、それを3Dビューアーで閲覧することができるようになります。思い出を、その場に居るかのように再現することが可能となります。

自宅を舞台としたゲーム

ゲームの体験も、これまでのように画面の向こう側だけでなく、自分の部屋の中を小さなキャラクターが走り回ったり、大きな敵と戦ったりするような、現実空間と融合したゲーム体験が出てくることが期待されます。

遠隔医療

遠隔地にいる患者と医師が空間コンピューティング端末を装着すれば、患者が3Dカメラで患部の様子をリアルに伝達し、医師はそれを3Dで見ることができるようになるため、診断も遠隔で行いやすくなるものと思われます。特に離島などの医師の数や施設が十分でない地域において、課題を解決するための技術となる可能性が高いです。

今後の展望

まずは2024年にAppleから初の空間コンピューティング端末である「Vison Pro」(ゴーグル型)が発売され、自宅や職場などの特定の場所において一部の人に活用され、他社からも同様の端末が発表されるものと思われます。
その後、一般の人たちを対象とした、より安価で軽量な端末(おそらく眼鏡型)の空間コンピューティング端末が発売されると思われます。この端末はより携帯性があり、屋外での使用も想定されたものになると推測されるので、スマートフォンの代替となることも考えられ、社会全体に空間コンピューティング技術が浸透していくきっかけになる可能性を秘めたものになるように思います。

まとめ

「空間コンピューティング」が話題となるきっかけとなった、Appleによる2023年6月のイベントでCEOが語った印象的な言葉として、「Appleはこれまでに2つの時代を切り開いてきた。Macによる『パーソナルコンピューティング』とiPhoneによる『モバイルコンピューティング』だ。そしていま、3つ目の時代を切り開こうとしている。それが『空間コンピューティング』だ。」という主旨の発言がありました。
つまりこれはITの歴史において無数に存在する、単なる新技術の一つではなく、より大きな時代の転換点と捉えうるものであると思われます。デジタル情報との接し方が根本的に変わるようになるタイミングにおいて、従来のやり方を今後どのように変えていくのかを考えることが重要になってくるように思われます。

当社では「空間コンピューティング」に必要なARや3Dに関する様々なサービスを提供しておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。

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